【実践ガイド】スコープ3排出量算定を始めるためのステップバイステップチェックリスト

近年、地球温暖化対策の重要性が高まる中、企業活動における温室効果ガス(GHG)排出量の削減は喫緊の課題となっています。特に、自社だけでなくサプライチェーン全体で排出される「スコープ3」のGHG排出量算定は、サプライチェーン脱炭素を推進する上で避けては通れないステップです。しかし、「何から手を付けて良いかわからない」「複雑そうでなかなか踏み出せない」と感じている企業担当者様も多いのではないでしょうか。
本記事では、スコープ3排出量算定をこれから始める企業様のために、抜け漏れなくスムーズに進めるためのステップバイステップチェックリストをご紹介します。具体的な準備から算定、そしてその後の活用まで、実務に役立つ情報を提供いたします。このチェックリストを活用し、貴社のサプライチェーン脱炭素推進を加速させましょう。
なぜ今、スコープ3排出量算定が重要なのか?
気候変動問題への対応は、もはや企業の社会的責任にとどまらず、事業継続のための必須要件となっています。パリ協定やSBTi(Science Based Targets initiative)に代表される国際的な枠組みが強化され、投資家や金融機関からも、企業に対してGHG排出量削減目標の設定と進捗開示が強く求められるようになりました。特にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)やISSB(国際サステナビリティ基準審議会)といった開示基準の整備が進む中、非財務情報の透明性は企業の評価に直結します。
GHG排出量は、自社が直接排出する「スコープ1」、自社が購入した電力・熱の使用に伴う「スコープ2」、そしてサプライチェーン全体で発生する「スコープ3」に分類されます。多くの企業、特に製造業においては、スコープ3が排出量全体の8割以上を占めることも珍しくありません。このため、サプライチェーン全体の脱炭素化を進めるには、スコープ3の正確な算定が不可欠です。算定を通じて自社の排出源を特定し、削減努力を行うことで、企業価値の向上、新たなビジネス機会の創出、サプライチェーン強靭化、そして競争力強化へと繋がります。
スコープ3排出量算定を始める前の準備と心構え
スコープ3排出量算定は、一朝一夕で完了するものではありません。成功には、事前の周到な準備と組織全体のコミットメントが不可欠です。まずは以下のポイントを確認し、算定プロジェクトを円滑に進めるための土台を築きましょう。
まず、経営層の強いコミットメントと、担当部署の明確化が重要です。環境部門だけでなく、調達、生産、開発、営業など、関係部署との横断的な協力体制を構築しましょう。次に、算定の目標設定を行います。例えば、SBTi認定を目指すのか、投資家への情報開示が主目的かによって、算定の精度や範囲の優先順位が変わります。そして、算定の基準となるGHGプロトコルや、スコープ3の15カテゴリーについて基本的な理解を深めることが、正確な算定への第一歩となります。
- 経営層の承認と予算確保: プロジェクト推進に必要なリソースを確保します。
- 担当チームの組成: 関係部署からメンバーを選出し、役割分担を明確にします。
- 算定ガイドラインの学習: GHGプロトコルのスコープ3算定基準を理解します。
- サプライヤーリストの作成: 主要な取引先を洗い出し、協力体制構築の準備をします。
- 情報収集体制の検討: どのようなデータを、誰から、どのように集めるか計画します。
スコープ3排出量算定の具体的なステップバイステップチェックリスト
ここからは、スコープ3排出量算定を実際に進めるための具体的なステップをご紹介します。各ステップを順に進めることで、抜け漏れなく、効率的に算定を進めることができます。
ステップ1:算定対象カテゴリの特定と優先順位付け
GHGプロトコルでは、スコープ3排出量を15のカテゴリに分類しています。自社の事業活動と関連の深いカテゴリを特定し、特に排出量の大きい、またはデータ入手が比較的容易なカテゴリから優先的に算定を進めることが現実的です。
- 15カテゴリのレビュー: 自社の事業活動と関連性の高いカテゴリをすべて洗い出します。
- 排出量貢献度の評価: 各カテゴリがおおよそどの程度の排出量を占めるかを推定し、貢献度が高いカテゴリを特定します。
- データ入手難易度の評価: 各カテゴリの算定に必要なデータがどの程度入手しやすいか(自社で保有、サプライヤーから取得可能かなど)を評価します。
- 優先順位付け: 排出量貢献度が高く、データ入手が比較的容易なカテゴリから優先的に算定対象とします。例えば、製造業であれば「購入した製品・サービス」や「輸送・配送(上流)」などが上位に来ることが多いでしょう。
ステップ2:データ収集計画の策定と実行
スコープ3排出量算定の成否は、適切なデータ収集にかかっています。どのデータを、誰から、どのような方法で収集するのかを具体的に計画し、実行に移します。
- 必要なデータ項目の特定: 各カテゴリの算定に必要な活動量データ(例:購入量、移動距離、出張回数)と、それに適用する排出係数を特定します。
- データ収集方法の決定: 自社システムからの抽出、サプライヤーへのアンケート、ヒアリング、公開データベースの活用など、最適な方法を選定します。
- サプライヤーへの協力依頼: サプライヤーからデータ提供を受ける場合は、依頼文書の作成、説明会の開催、協力体制の構築が重要です。データの機密性への配慮も忘れずに行いましょう。
- スケジュールと担当者の設定: データ収集の期限と責任者を明確にし、進捗を定期的に確認します。
- データ品質の確認: 収集したデータが正確かつ網羅的であるかを確認し、必要に応じて補完や修正を行います。
ステップ3:排出量の算定と可視化
収集した活動量データに適切な排出係数を乗じることで、GHG排出量を算定します。算定結果は、視覚的に分かりやすい形で可視化することが重要です。
- 排出係数の選択: 環境省・サプライチェーン排出量算定排出係数データベースや、GHGプロトコルに準拠した信頼性の高い排出係数を選択します。
- 算定ツールの活用: Excelでの手計算も可能ですが、複雑な算定には専門の算定ツールやプラットフォームの活用が効率的です。
- 算定の実行: 各カテゴリの活動量データと排出係数を用いて、GHG排出量を計算します。
- 結果の可視化: 算定結果をグラフや表で分かりやすくまとめ、排出量が多いカテゴリやサプライヤーを特定できるようにします。
- 第三者検証の検討: 算定結果の信頼性を高めるため、必要に応じて第三者機関による検証(アシュアランス)を検討します。
ステップ4:結果の分析と目標設定、開示
算定した排出量を分析し、削減目標の設定、そして情報開示へと繋げます。算定はあくまでスタートラインであり、ここからが本当の脱炭素推進の始まりです。
- 排出源の特定と分析: どのカテゴリ、どのサプライヤーからの排出量が大きいのか、具体的な削減ポテンシャルはどこにあるのかを詳細に分析します。
- 削減目標の設定: 分析結果に基づき、具体的なGHG削減目標(例:SBTi認定目標)を設定します。短期・中期・長期の目標を設定することが効果的です。
- 削減施策の検討と実行: 省エネ設備導入、再生可能エネルギーへの転換、サプライヤーとの協働による効率化など、具体的な削減施策を立案・実行します。
- 情報開示: 統合報告書、サステナビリティレポート、ウェブサイトなどを通じて、算定結果、目標、進捗状況を透明性高く開示します。TCFDやISSBなどの開示フレームワークに準拠することも重要です。
- 定期的な見直しと更新: スコープ3排出量算定は一度行ったら終わりではありません。定期的に見直し、最新のデータに基づいて更新し、改善サイクルを回しましょう。
算定を成功させるためのポイントと注意点
スコープ3排出量算定を成功させるためには、いくつかの重要なポイントと注意点があります。
最も重要なのは、サプライヤーとの強固な連携です。スコープ3の大部分はサプライヤーの活動から発生するため、彼らの協力なしには精度の高い算定は不可能です。情報共有の場を設け、共通の目標に向かって協力する関係を築きましょう。また、算定には専門的な知識が必要となるため、外部の専門家やソリューションプロバイダーの活用も有効です。複雑なデータ収集や算定プロセスを効率化し、専門的なアドバイスを得ることで、より正確かつ迅速な算定が可能になります。
- 継続的な取り組み: スコープ3算定は一度で完結するものではなく、継続的なデータ収集、算定、分析、改善が必要です。
- データ品質の向上: 算定精度を高めるためには、活動量データの品質を常に意識し、改善に努めることが重要です。
- 外部連携の強化: サプライヤーだけでなく、業界団体やコンサルタントとの連携も積極的に行いましょう。
- ツールの活用: GHG排出量算定を支援するデジタルツールやプラットフォームを導入することで、作業の効率化と精度向上を図れます。
まとめ
スコープ3排出量算定は、サプライチェーン全体の脱炭素化を実現するための重要な第一歩です。複雑に感じるかもしれませんが、本記事でご紹介したステップバイステップのチェックリストに沿って進めることで、抜け漏れなく効率的に算定を進めることができます。経営層のコミットメント、関係部署との連携、そしてサプライヤーとの協働を強化しながら、貴社の脱炭素経営を推進してください。この取り組みは、持続可能な社会の実現に貢献するだけでなく、企業の競争力強化にも繋がるはずです。
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